作品紹介
『花束みたいな恋をした』は2021年1月29日に公開された恋愛映画。脚本は『カルテット』『大豆田とわ子と三人の元夫』の坂元裕二、監督は『罪の声』『とんび』の土井裕泰。菅田将暉と有村架純がダブル主演を務め、コロナ禍の公開ながら興行収入38.1億円を記録する大ヒットとなった。
2015年、終電を逃した京王線・明大前駅。山音麦と八谷絹は、居合わせた店で偶然言葉を交わす。好きな作家、好きな映画、好きな音楽——驚くほど趣味が一致する二人はたちまち恋に落ち、やがて多摩川沿いの部屋で同棲を始める。イラストレーターを目指す麦と、就職に踏み切れない絹。好きなものだけで満たされた完璧な日々は、しかし「働くこと」と「生活すること」が二人の間に入り込んだ瞬間から、静かにかたちを変えていく。
実在の書籍・映画・音楽・ゲームが固有名詞のまま大量に引用され、2015年から2020年という具体的な時間を生きた二人の記録として提示される。恋の始まりの多幸感と、終わりの避けがたさをどちらも等しい熱量で描き切った脚本は、公開後長く語られ続けている。
話題になったポイント
「私たち、同じ」から始まる恋の描き方
好きなものが完全に一致することの多幸感を、あれほど具体的に描いた恋愛映画はほとんどない。今村夏子、押井守、きのこ帝国、ゼルダの伝説——固有名詞の羅列がそのまま二人の関係の濃度になっていく序盤は、多くの観客に「自分の話だ」と感じさせた。
ファミレスでの終盤シーン
物語終盤、二人が向かい合って話すファミリーレストランのシーンは公開後もっとも語られた場面。隣の席に座る若いカップルの存在が、かつての自分たちを容赦なく突きつける演出は、坂元裕二脚本の真骨頂として絶賛された。
「映画のまち調布」でのロケ
撮影の多くが東京都調布市で行われた。調布市は日活撮影所・角川大映スタジオを擁する「映画のまち」であり、公開後は市内11か所のロケ地を掲載したマップ(多言語版)を制作・配布。ロケ地パネルの設置も行われ、街ぐるみで作品を迎え入れた。
ロケ地ガイド
京王線沿線(出会いのエリア)
すべては終電を逃した夜から始まった。物語の起点となる駅と、二人の生活が根を下ろす調布の駅がいずれも京王線で結ばれている。
- 明大前駅(京王線):麦と絹が終電を逃して出会う、すべての始まりの駅。ここから調布まで甲州街道をひたすら歩くという、劇中屈指の名場面につながっていく。
- 飛田給駅(京王線):1番線ホームでのシーンが撮影された。味の素スタジアムの最寄駅としても知られるが、映画では何気ない日常の駅として登場する。
- 飛田給駅南口バスロータリー:駅前のバス停でのシーン。二人の生活のリズムが刻まれた場所のひとつ。
- つつじヶ丘駅(京王線):駅北側の道路でのシーンが撮影された。調布市内でもとりわけ住宅地の空気が濃いエリア。
調布駅周辺エリア
本作の「街」の中心。書店、商業施設、横断歩道と、二人の日常のほとんどがこの半径数百メートルに詰まっている。
- 調布駅前広場:待ち合わせや行き来のシーンが撮影された、街の玄関口。地下化された調布駅の上に整備された明るい広場である。
- 調布PARCO前:二人が歩く街なかのシーン。駅前のランドマークとして、劇中の生活感を支えている。
- PARCOブックセンター調布店:本を通じて結ばれた二人にとって、もっとも象徴的なロケ地。調布PARCO 5階の書店で、実際に劇中と同じ棚の前に立てるのが嬉しい。
- ファミリーマート調布小島町店付近の横断歩道:何気ない移動の一瞬を切り取った横断歩道。こうした「どこにでもある場所」の積み重ねが、本作のリアリティを支えている。
多摩川・深大寺エリア
同棲生活の舞台。川と土手と坂道が、二人の5年間の背景であり続けた。
- ちょうふ多摩川おさんぽロード:旧・多摩川サイクリングロード。麦と絹が並んで歩く場面が撮影された、本作を象徴するロケーション。川沿いを歩けば、二人が「ずっとこのままでいたい」と願った時間の手触りがよみがえる。
- 染地通りバス停:多摩川に近い住宅地のバス停。生活圏の実感を伝える一場面。
- 御塔坂橋交差点:深大寺元町の横断歩道でのシーン。周辺は深大寺そばで知られる散策エリアでもある。
- 道生神社:飛田給にある小さな神社。街の片隅の静けさが、二人の関係の変化を静かに見守っている。
聖地巡礼のおすすめルート
調布 徒歩+京王線 1日ルート
まず明大前駅で「はじまりの夜」を体感し、京王線で飛田給駅へ。道生神社と駅前ロータリーを巡ったあと、調布駅へ移動して駅前広場、調布PARCO、PARCOブックセンターへ。午後は多摩川おさんぽロードを歩き、御塔坂橋方面から深大寺へ抜けて深大寺そばで締める。調布市が配布するロケ地マップを片手に歩くのがおすすめ。
甲州街道 完走ルート(健脚向け)
劇中で麦と絹が実際に歩いた、明大前から調布までの甲州街道を自分の足でたどるコース。距離にして約10km、2〜3時間。夜に歩けば、あの晩の二人の会話が耳元で再生されるはず。
視聴者の声・評判
評価
Filmarks平均評価は3.9〜4.0と非常に高い。コロナ禍の2021年1月公開ながら興行収入38.1億円を記録し、日本アカデミー賞では脚本賞をはじめ多数の賞を受賞した。
好評だったポイント
「自分の恋の記録を勝手に映画化された気分」「固有名詞の使い方が完璧」「ファミレスのシーンで息ができなくなった」といった感想が圧倒的に多い。恋愛の始まりと終わりを、どちらか一方に肩入れせず等価に描いた誠実さが高く評価されている。
賛否の分かれた点
「サブカル的な固有名詞が多く、共感できない人には刺さらない」「登場人物の価値観が特定の層に寄りすぎている」といった指摘もある。ただし「わからないなりに二人の時間の重さは伝わった」という声も多く、賛否そのものが本作の話題性を支えている。