作品紹介
『劇場版 SPEC〜天〜』は、2012年4月7日に東宝系279スクリーンで公開された堤幸彦監督のサスペンス・アクション映画です。2010年秋にTBS金曜ドラマ枠で放送された『SPEC〜警視庁公安部公安第五課 未詳事件特別対策係事件簿〜』の劇場版第1作にあたり、公開初週末に約35万人を動員して興行成績初登場第1位を獲得、最終興行収入は23.9億円(2012年度邦画ランキング14位)を記録しました。主演は当麻紗綾役の戸田恵梨香と、瀬文焚流役の加瀬亮。脚本は連続ドラマから続投した西荻弓絵が手がけています。
物語は、海上のクルーザーから乗客全員がミイラ化した状態で発見されるという猟奇的な事件から幕を開けます。「未詳(みしょう)」こと未詳事件特別対策係の当麻と瀬文が捜査に乗り出すと、そこには超能力=「スペック」を持つ者たちの影がありました。やがて二人は内閣情報調査室の特務班と接触し、日本を裏で操る「御前会議」と、スペックホルダーの殲滅計画「シンプルプラン」をめぐる国家規模の陰謀に巻き込まれていきます。
そして、連続ドラマで死んだはずの最強のスペックホルダー・ニノマエ(神木隆之介)が姿を現します。テレビシリーズの「小ネタ全開」の空気を残したまま、物語のスケールは一気に国家の中枢へ。本作は2012年4月1日に放送されたスペシャルドラマ『SPEC〜翔〜』を受けた作品であり、翌2013年公開の『劇場版 SPEC〜結〜』(漸ノ篇・爻ノ篇)へと続く、シリーズの折り返し地点となる一本です。
話題になったポイント
テレビの熱をそのまま持ち込んだ「堤ワールド」の劇場化
画面を埋め尽くすテロップ、唐突なギャグ、大仰な効果音——堤幸彦監督ならではの過剰な演出は、劇場のスクリーンでも一切薄まりませんでした。当麻と瀬文のかみ合わない掛け合いといった「未詳」の日常描写と、国家を揺るがすシリアスな陰謀劇が同居する独特のトーンが、シリーズファンを熱狂させました。一方で「ドラマを観ていないと置いていかれる」という声も多く、評価が真っ二つに割れた作品でもあります。
神木隆之介のニノマエ復活と「一十一」の存在感
連続ドラマ屈指の人気キャラクターであり、時間を止めるスペックを持つニノマエ。死んだはずの彼が本作でどう関わってくるのかは、公開前から最大の関心事でした。神木隆之介の怪演と、少年の姿でありながら底知れない存在感を放つ演技は、本作の評価を支える大きな柱となっています。
「御前会議」という国家の闇へのスケールアップ
連続ドラマが個々のスペックホルダーとの対決を軸にしていたのに対し、劇場版では日本の影の支配者たる「御前会議」が物語の中心に据えられます。荘厳な洋館で開かれる密室の会議、スペックホルダー抹殺計画「シンプルプラン」——ロケ地選びも、その重厚な世界観を支える重要な要素となりました。
ロケ地ガイド
東京エリア(未詳と青池里子の日常)
当麻たちの捜査と、栗山千明演じる青池里子の日常が描かれるエリア。池袋・文京区・品川・荒川区と、都内各所が使われています。
- マンション:豊島区西池袋にあるマンションで、青池里子の自宅の外観として登場します。
- ホリックハウス:文京区後楽の建物が、青池里子の自宅マンションの内部として使われました。外観と内部で別の場所を使い分ける、映画ならではの手法です。
- 吉野家西五反田一丁目店:青池里子が牛丼を食べていた店。SPECらしい「日常の中の異物感」を演出する一場面です。
- 一軒家:中野区松が丘の一軒家で、一十一とその両親が写った写真に登場する家として使われました。
- 隅田川の水神大橋:馬場香の運転で、当麻紗綾と青池里子を乗せた車が左折した場所。荒川区南千住の隅田川に架かる橋です。
- 都道314号:同じく南千住を走る道路で、車が直進していくシーンに使われています。
- 蕉雨園:文京区関口にある明治期の名邸。御前会議が行われた会場の空撮映像として登場します。
神奈川エリア(横須賀・横浜の海と施設)
本作のロケを支えたのが神奈川県。横須賀のヨットハーバー、横浜の水再生センターなど、都会的でありながら人けのない場所が効果的に使われました。
- シティーマリーナ ヴェラシス:横須賀市西浦賀のヨットハーバー。当麻紗綾と瀬文焚流が全員ミイラ死体殺人事件を調べるために訪れた場所で、事件の発端となるクルーザーの舞台です。
- 神奈川水再生センター:横浜市神奈川区千若町。志村美鈴がゴミ箱をかぶりながら逃げるという、本作屈指の珍場面が撮影されました。
- 緑山スタジオ:横浜市青葉区にあるTBSの撮影拠点。暑い中を当麻紗綾と瀬文焚流が走っていたシーンに使われています。
- 藤沢市民病院:青池里子が運ばれた「東京中央警察病院」として登場します。
遠征エリア(山梨・静岡・新潟)
物語の核心に関わる重要な場面は、関東を離れた土地で撮影されました。いずれも建築や風景そのものが強い個性を持つ場所です。
- 根津記念館:山梨県山梨市正徳寺。東武鉄道の礎を築いた根津嘉一郎の旧邸で、「御前会議」が開かれる会場として使われました。重厚な和風建築が、国家の闇を象徴する空間として機能しています。
- 沼津市南部浄化センター:静岡県沼津市江浦。志村美鈴が拳銃を突きつけられる緊迫のシーンの舞台です。
- なかさと清津スキー場:新潟県十日町市。一十一たちがいる洋館として登場する、雪深い土地のロケーションです。
聖地巡礼のおすすめルート
横須賀・横浜「未詳の捜査」ルート
京急線を軸に神奈川のロケ地を巡るコースです。シティーマリーナ ヴェラシスで事件の発端となったヨットハーバーの空気を味わい、そこから横浜方面へ北上して神奈川水再生センター周辺へ。締めくくりに藤沢市民病院まで足を延ばせば、本作の神奈川ロケをほぼ網羅できます。ヨットハーバーや浄化施設は稼働中の施設のため、外観の見学にとどめ、敷地内への立ち入りは避けてください。
都内「青池里子」ルート
半日で回れる都内コース。豊島区西池袋のマンションから始め、文京区のホリックハウス、そして品川区の吉野家西五反田一丁目店へ。最後に荒川区南千住まで移動して隅田川の水神大橋から隅田川の景色を眺めれば、劇中のドライブシーンを追体験できます。
「御前会議」聖地ルート
本作の世界観の中心である御前会議の舞台を訪ねる特別コース。空撮に使われた文京区の蕉雨園は通常非公開ですが、目白台の高低差ある地形と椿山荘周辺の散策とあわせて雰囲気を味わえます。時間が取れるなら、会議の会場として撮影された山梨市の根津記念館まで足を延ばすのがおすすめ。一般公開されている記念館で、庭園と重厚な建築をゆっくり見学できます。
評価・反響
評価スコア
興行収入23.9億円、公開初週末は動員35万1,473人・興収4億6,870万円で初登場第1位。ぴあの出口調査による「満足度ランキング」でも1位を獲得し、DVD/Blu-rayも2012年10月22日付オリコン週間チャート(スタンダード版)で1位を記録しました。一方、映画レビューサイトでの評価は分かれており、Filmarksでは★3.6前後、みんなのシネマレビューでは平均4.41/10点と、熱狂的な支持と厳しい評価が同居しています。