作品紹介
『旅と日々』は2025年11月7日公開の日本映画。三宅唱監督が、つげ義春の短編漫画「海辺の叙景」と「ほんやら洞のべんさん」を原案に脚本を書き下ろした作品です。主演はシム・ウンギョン、共演に堤真一、河合優実、髙田万作。第78回ロカルノ国際映画祭で最高賞の金豹賞とヤング審査員賞特別賞をW受賞しました。日本映画の金豹賞受賞は2007年の小林政広監督『愛の予感』以来18年ぶり、日本人監督としては映画祭78年の歴史で4人目という快挙です。
物語は二つの旅で構成されます。ひとつは夏の海辺の島で交わされる、若い男女の宙ぶらりんな数日間。もうひとつは、雪に閉ざされた北国の温泉町を訪れた脚本家の彷徨。時代も季節も異なる二つの旅が、フィルムの手ざわりのなかで静かに響き合います。
撮影地は大きく二か所。夏パートは東京都・神津島で、大黒根トンネルや返浜、赤崎遊歩道といった島の風景が全編に流れます。冬パートは2025年2〜3月の山形県庄内地方で、スタジオセディック庄内オープンセットを拠点にあつみ温泉やじょい食堂などでロケが行われました。海と雪。ふたつの気候をまたいだこの構成が、そのまま作品の呼吸になっています。
話題になったポイント
ロカルノ国際映画祭 金豹賞(グランプリ)
2025年8月、スイス・ロカルノ国際映画祭のコンペティション部門で最高賞である金豹賞を受賞。さらにヤング審査員賞特別賞もあわせて受賞し、二冠となりました。日本映画としては18年ぶりの快挙で、受賞後には米国・フランス・韓国・中国・台湾・香港・インドネシア・ポルトガル・ギリシャなど各国での配給も決定しています。
つげ義春を「翻案」するということ
原案となったつげ義春の短編は、いずれも筋らしい筋のない旅の記録。三宅唱監督はそれを説明で埋めることなく、余白と間そのものを映画の主題に据えました。原作ファンからも「つげの空気が映像で立ち上がっている」と評されています。
庄内ロケという選択
冬パートは全編が山形県庄内地方ロケ。豪雪地帯の集落や養魚場、温泉街を巡る撮影は、鶴岡市の観光サイトでも取り上げられるなど、地元でも大きな話題になりました。
ロケ地ガイド
神津島エリア(東京都)
夏パートの舞台。伊豆諸島の小さな島が、丸ごとひとつの物語の器になっています。
- 大黒根トンネル:東京都神津島村。島の北端にある廃トンネル。冒頭シーンの撮影地です。
- 返浜:東京都神津島村。白砂と透明な海が広がる浜。雨の掘立小屋の場面が撮られました。
- 前浜海岸:東京都神津島村。港のすぐそばの砂浜。読書のシーン。
- 赤崎遊歩道:東京都神津島村。海の上に組まれた木道と飛び込み台で知られる、島を代表する景勝地。
- ありま展望台:東京都神津島村。二人の会話が交わされる高台。
- 名組湾:東京都神津島村。廃線トロッコ跡が残る入り江。
- 神津島村郷土資料館:東京都神津島村1382。島の歴史と民俗を展示する施設。
- みのり屋商店:東京都神津島村。アイスを買って歩き出す場面。
庄内エリア(山形県)
冬パートの舞台。2025年2〜3月、雪の最も深い時期に撮影されました。
- あつみ温泉:山形県鶴岡市湯温海。開湯1000年以上といわれる温泉街。
- じょい食堂:山形県鶴岡市鳥居町。雪国の食堂のシーン。地元に愛される一軒です。
- 成澤養魚場:山形県鶴岡市羽黒町川代。清流に囲まれた養魚場。
- スタジオセディック庄内オープンセット:山形県鶴岡市羽黒町川代。冬パート撮影の拠点となった国内最大級のオープンセット。
- 北月山荘:山形県東田川郡庄内町立谷沢。月山の麓に建つ宿泊施設。
- 三川橋/旧朝日村地区/羽黒町大口:いずれも雪の庄内平野と山里の風景。
白鷹・由利本荘エリア
旅を「移動」として画面に刻む、鉄道の風景。
- 最上川鉄橋(白鷹町):山形県西置賜郡白鷹町。列車が最上川を渡っていくカット。
- 由利高原鉄道:秋田県由利本荘市。雪国へ向かう列車がトンネルを抜ける場面。矢島駅と羽後本荘駅を結ぶローカル線です。
聖地巡礼のおすすめルート
神津島 一泊二日の島めぐりルート
竹芝桟橋または調布飛行場から神津島へ。港近くの前浜海岸とみのり屋商店を起点に、レンタバイクで赤崎遊歩道、返浜、島最北の大黒根トンネルへ。翌日はありま展望台と名組湾を回り、神津島村郷土資料館で締める、一泊二日のコースです。
庄内・雪の温泉ルート
羽越本線であつみ温泉駅へ。あつみ温泉に泊まり、翌日は鶴岡市街のじょい食堂で食事をしてからスタジオセディック庄内オープンセット(冬期は要確認)と成澤養魚場方面へ。雪のある時期に訪ねてこそ、あの画面の寒さが分かります。
ローカル線で旅をなぞるルート
由利高原鉄道の「おばこ号」に揺られてトンネルを抜け、山形へ移動して最上川鉄橋(白鷹町)を見にいく、鉄道好きのためのコース。作中の「移動そのものが物語である」という感覚を体で追える道行きです。
視聴者の声・評判
評価スコア
Filmarksの平均スコアは★3.9。ロカルノ国際映画祭金豹賞という国際的評価を受けた作品らしく、映画ファン層からの支持が厚い一本です。
好評だったポイント
「つげ義春の余白が映画になっている」「シム・ウンギョンの佇まいが素晴らしい」「神津島の夏と庄内の冬、二つの空気が体に残る」「説明しない勇気」――物語を追う映画ではなく、時間と風景に浸る映画として支持されています。一方で「筋を追いたい人には退屈かもしれない」という率直な感想も見られ、鑑賞前に作風を知っておくと満足度が上がるタイプの作品です。