作品紹介
『夜明けのすべて』は2024年2月9日公開の日本映画。瀬尾まいこの同名小説を三宅唱監督が映画化した作品で、主演は松村北斗と上白石萌音。第98回キネマ旬報ベスト・テンで日本映画第1位に選ばれ、三宅唱が日本映画監督賞、松村北斗が主演男優賞を受賞しました。第79回毎日映画コンクールでも日本映画大賞・監督賞・TSUTAYA DISCAS映画ファン賞の三冠に輝いています。
PMS(月経前症候群)で月に一度どうしても感情が抑えられなくなる藤沢美紗(上白石萌音)と、パニック障害で電車にも乗れなくなった山添孝俊(松村北斗)。二人は、社員数人の小さな科学教材メーカー「栗田科学」で顔を合わせます。最初はぶつかり合うばかりだった二人が、互いの事情を知り、「治してあげる」でも「付き合う」でもない、ちょうどよい距離で相手を助けはじめる――。
ロケ地は東京・埼玉・千葉・神奈川に広がります。象徴的なのは東京都大田区馬込の相生坂富士見跨線歩道橋。富士山と星空が同時に見えるこの跨線橋は、作品のクライマックスを支える場所として予告編にも登場しました。職場の栗田科学(テナントビル)は埼玉県東松山市、冒頭の雨のシーンは千葉県佐倉市のユーカリが丘駅南口ロータリー。派手な観光地はひとつもなく、誰かの通勤路や昼休みの公園といった「生活の場所」ばかりが選ばれているのが本作の特徴です。
話題になったポイント
恋愛にしない、という選択
男女が主人公でありながら、二人は最後まで恋人にならない。「相手を救えるのは自分ではない」と知りながら、それでもできることをする関係が丁寧に描かれます。この距離感の設計こそが本作最大の発明として繰り返し語られました。
16mmフィルムで撮られた光
撮影は16mmフィルム。粒子の粗い画面が、夜明け前の薄い光や蛍光灯の下の顔色をやわらかく捉えます。三宅唱監督が『ケイコ 目を澄ませて』に続いてフィルム撮影を選んだことも、映画ファンの間で大きな話題になりました。
プラネタリウムという到達点
栗田科学が手がける移動式プラネタリウムは、物語の要。国立天文台三鷹キャンパスでのシーンを含め、「見えないものを見せる装置」というモチーフが作品全体を貫いています。
ロケ地ガイド
大田区馬込・大森エリア(東京)
本作の情感を担う坂の街。監督が撮影前から歩き回って選んだ場所が並びます。
- 相生坂富士見跨線歩道橋:東京都大田区中馬込。線路をまたぐ歩道橋から富士山が見える、作品を代表するロケ地です。
- 馬込西公園:東京都大田区中馬込。自転車で坂を下るシーン。
- 珈琲亭ルアン:東京都大田区大森北。1971年創業の純喫茶。昭和の内装がそのまま画面に残ります。
- 久が原風月堂:東京都大田区久が原。和菓子を買うシーン。
- 秀榮サンハイツ:東京都大田区鵜の木。山添が暮らすアパートの外観。
- 多摩川大師橋緑地:東京都大田区羽田。河川敷を歩く場面。
東松山エリア(埼玉)
物語の中心となる職場と、その周辺。
- 栗田科学(テナントビル):埼玉県東松山市美原町。藤沢と山添が働く会社。社屋そのものが本作の「居場所」です。
- むらさき公園:埼玉県東松山市。昼休みの何気ない時間が流れる公園。
千葉エリア
物語の入口となる街。
- ユーカリが丘駅南口ロータリー:千葉県佐倉市上座。雨の冒頭、藤沢がベンチに横たわる印象的な場面。
- 北初富駅:千葉県鎌ケ谷市。電車に乗るシーン。パニック障害を抱える山添にとって、電車は象徴的な存在です。
三鷹・西東京・厚木エリア
星と、治療と、家族。
- 国立天文台三鷹キャンパス:東京都三鷹市大沢。終盤の重要な舞台。一般見学もできる施設です。
- 佐々総合病院:東京都西東京市田無町。リハビリテーション科がロケ協力しました。
- GROVE cafe&green:東京都品川区東大井。感情がこぼれる会話のカフェ。
- 鳶尾団地:神奈川県厚木市鳶尾。実家の団地の外観。
聖地巡礼のおすすめルート
馬込・大森 半日さんぽルート
JR大森駅から珈琲亭ルアンでコーヒーを一杯。そこから坂を上って馬込西公園、相生坂富士見跨線歩道橋へ。空気の澄んだ冬の夕方なら、藤沢と山添が見た富士山のシルエットに会えるかもしれません。締めに久が原風月堂で和菓子を。徒歩と電車で半日のコースです。
東松山「栗田科学」ルート
東武東上線・東松山駅から栗田科学(テナントビル)とむらさき公園へ。実際に社員たちが昼休みを過ごした場所を歩けば、あの職場の空気が少しだけ分かります。
星を見にいくルート
京王線・武蔵境からバスで国立天文台三鷹キャンパスへ。定例観望会や見学コースがあり、作品と同じ「星を見る」体験ができます。天文台通りの並木道も美しい場所です。
視聴者の声・評判
評価スコア
Filmarksの平均スコアは★4.0(レビュー6万7千件超)と高評価。第98回キネマ旬報ベスト・テン日本映画第1位、第79回毎日映画コンクール日本映画大賞、第37回東京国際映画祭・黒澤明賞(三宅唱)、第16回TAMA映画賞三冠、第48回日本アカデミー賞優秀作品賞など、2024年の日本映画で最も多くの賞を集めた一本です。
好評だったポイント
「恋愛にしなかったことが本当に良い」「見終わったあと呼吸が深くなる」「16mmの画面がやさしい」「栗田科学みたいな職場で働きたい」「上白石萌音と松村北斗の演技が抑制的で素晴らしい」――派手な事件は起きないのに、観たあとで世界の見え方がわずかに変わる。そんな感想が数多く寄せられています。一方で「淡々としすぎている」という声もあり、静かな映画が苦手な人には合わない可能性もあります。